因島文学散歩【9】宿禰島(三原市鷺浦町)

宿禰島(すくねじま)(三原市鷺浦町)

海は蒼く静かにうねる。島々はまだ朝もやのうちにあるが、東の空はもう明るい。ゆっくり単調にこぐ千太の太い腕。トヨは腰の手拭ではじめて汗を拭う。小さな伝馬船の行手には、掌に乗るような島がある。それも今は霞んで見える。

新藤兼人『シナリオの構成』(宝文館、112頁)

あの乙羽信子さんが手拭で汗を拭うシーンのシナリオである。すなわち映画『裸の島』のシナリオの一部である。

このシナリオにはセリフは一言もない。はじめから終りまで画面の組合せだけで成立っている。しかしサイレント映画ではない。音はある。波の音、風の音、笑う声、ため息、生きている自然と人間はそのままシナリオのなかに生きている。(同書、162頁)

シナリオを書いてから2年後の昭和33年3月、新藤兼人は尾道から船旅を続けた。

あちこちの島の港で下りては小船を雇って、巡航船などは立ち寄らない小さな島から島へ渡った。

その時、シナリオに恰好な島をみつけた。その島は宿弥(すくね)島といって、一人の老人が一匹の山羊と一匹の犬と一匹の猫を相手に棲んでいた。(同書、165頁)

まるで極楽浄土にいるような話が続くのであるが、ここで私の手垢にまみれた、映画の思い出などを書くと、たちまち俗界へ引き落とされることになりそうなので、今回はそれはやめておく。

今はフラワーセンターになっているところにあった農業試験場の温室の前の石垣に座って、赤く染まった夕焼けを反射する海面に、ネズミの尻尾のような岩礁が長く伸びた小島を、いつまでも眺めていたのは、遠い昔の、日暮れの遅い夏の大潮の時だった。

極楽の続きのような佐木島にはロケ隊の宿泊した家があって、そこの庭に石碑が建っている。

なお、島の名前は高良神社の祭神であった武内宿禰(すくね)の墓があったという伝承による。糸崎神社、重井、柳津と神功皇后伝説の地は多い。

こんなにいたるところで停泊していたら、神功皇后の船はなかなか進まなかったに違いない。

(文・写真 因島文学散歩の会・柏原林造)

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