「ブラウン先生」川本雅之

ブラウン先生(広島市議会議長賞受賞作品)

左腕を
長い竹の物差しで
ピシャリ!
打たれて
痛かった
でも何んだか
少し嬉しかった
校庭にある一番高い桜の木に登った
遠くにかすかに見える
光る海を見たくなったからだ
いつも母から
「桜の枝折るバカ、梅の枝折らぬバカ」
と聞かされていたので桜の枝は折ってません

四年生の春
尾道から 新しい男先生が
瀬戸田町 西小学校へ やって来た

背が高く 色白で やさしそう
茶色の背広に茶色のズボン
さっそく「ブラウン先生」と渾名した

五年生の夏休み
三原の海の見える真っ白な病院に
同級生三十三人で見舞いに行った
ブラウン先生は肺結核だった
茶色の帽子、茶色の背広、茶色のネクタイ、
茶色のズボン、茶色の靴下、茶色の靴
完璧な「ブラウン先生」だ!
青白い顔がニコリと笑った
その顔を見た瞬間 涙が出た
嬉しい時にも涙が出るのだと初めて知った
これが「うれし涙」だ!
町に出て食堂に入りキツネうどんを御馳走してくれた
それ以来うどんと云えばキツネうどんになった

国語の時間は本を読んでくれた
話の内容は忘れたが「急がば廻れ」と云う言葉だけは
今でも覚えている

通知簿に「まるで仏様のような子供」と書かれた
その意味はよく分からなかったが
確かに無口で大人しかった

雪が降った日は 校庭に出て
雪合戦をやったり 雪ダルマを作ったり
一緒に遊んでくれた

放課後 当時はやっていた「お富さん」の歌を
ブラウン先生が得意気に楽しく歌ってくれた

六年生の春、ミカンの木がいっぱいあった山の方から
海の近くに学校が移転した
その時、ブラウン先生は黒い縁の顔写真になっての
引っ越しになった

今では西小学校は壊されて
鉄筋コンクリート三階建の町営住宅が建ち
二宮尊徳の立像が海にむかって
ポツリと立っているだけ

(版画・詩 川本雅之)

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