追憶 ~甦る日々【5】一章 希望と躓き

大学に入学したての私が頼りにしたのは――学生寮の同室の先輩とは違った意味であるが――県庁に勤めていた従兄弟の義夫である。

彼は父方の従兄弟で、私より7歳年長だった。三原市に生まれ、一人っ子で大事に育てられた。父は警察官出身、母は因島から嫁いだ。名古屋の薬学系の大学を卒業し、専門職として県庁に入った。彼には幼少の頃からかわいがってもらっていた。広島市内に知人のいない私にとって、気の許せる親族の存在はありがたかった。

都合の良いことに従兄弟は、私が通う大学の本部キャパスの裏門近くに、六畳間のアパートを借りていた。「いつでも使っていいよ」と言われ、この部屋は、私の格好の息抜きの場所になった。

たまに出席する語学の講義の後に入り浸るようになった。チョコレートなどの菓子が常備されていて、それを食べながら、ひとりの時間をのんびりと楽しんだ。学生寮は相部屋だし、集団生活ならではの緊張と苦労があり、知らず知らずのうちに疲労が蓄積していった。

入学して間もないある日、従兄弟の義夫から寮の私に電話が入った。街で食事でもしようと、県庁の近くで待ち合わせた。

会うとすぐに義夫は、私に問うた。

「どこに行こうか。」

特に希望がなかった私は答えた。

「義夫さんにまかせるよ。」

「そうか、じゃあタクシーに乗ろう。」

タクシーが広島駅の近くを通過するころ、義夫はいきなり私に告げた。

「これからストリップを見にいこう。」

「えっ、ストリップ!」

意外な誘いに私はたじろいだ。

「義夫さん、それはいいよ、いいよ。」

そんな私の抵抗などお構いなしに義夫は、タクシーを駅近くのストリップ劇場の前に停めた。もはや一緒に中にはいるしかない。ふたりは舞台近くに座った。ショーはすでに始まっており、ひとりの踊り子が踊っていた。

もちろん私のストリップ初体験である。ところが、不思議なことに何も感じないのである。一時間くらい経ったであろうか、つまらない「初体験」になった。こうしたことがあったためか、それ以後、ストリップ劇場に足を運ぶことはなかった。

しかし、従兄弟の善意は私に通じたのは確かである。彼は、いささか衝撃的な手法で私を都市デビューさせたかったのであろう。「せっかく親元を離れて大学に来たんだろう、ストリップぐらい見てみろよ。」と、私の度胸を試したに違いない。義夫は、島でしか生活したことのない私の都市生活への水先案内人だった。

義夫は暫くして、思いもよらぬ提案をしてきた。

「どうだ、広島の生活に慣れたか。ところで女の子と付き合ってみる気はないか。」

「えっ………。」

あっけにとられている私に義夫は、その女性について説明を始めた。どうもこの話は、すでに彼女の同意を受けていたようだ。年齢は私と同じで、大手製菓会社の広島営業所のOLだという。住まいは廿日市である。

私に断る理由はなかった。彼女がすでに社会に出て働いているということに気持ちが動いた。まず三人で会おうということになった。義夫は私をふたつ目のテストにかけたのである。さあ、どうなるか。それまで女性とまともに話したことのない私である。

(青木忠)

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