追憶 ~甦る日々【3】一章 希望と躓き

私ほど大学に希望を抱いた人間は珍しいだろう。しかし、それはことごとく打ち砕かれた。今から考えると滑稽に思えて仕方ないのだが、入学と同時に躓(つまず)きが連続した。

そもそも、大学を「自由の王国」と夢想したことが、その始まりであった。無味乾燥としか思えない受験戦争の副産物なのであろうが、大学への期待は膨らむ一方であった。生まれ故郷には「自由」はないと思った。大学に行けば、大都市に住めば、願いの全てが叶うと信じて疑わなかったのである。

最初の躓きは、学生寮に入居することによって起きた。たちどころにその雰囲気に染まった。

この寮は戦前の旧初等師範学校の寮を活用したもので、古びた2階建ての木造建築である。寮費もわずか300円で、専用の食堂も格安だった。私には、10畳の畳が敷かれただけの1階の部屋が割り当てられた。そこにはすでに、4歳も年長の2浪の4年生が住んでいた。空手の有段者でもあり、頼もしい、面倒見のよい先輩であった。

入学式前夜、私の部屋で私の入学を祝っての酒盛りが始まった。同室の先輩と親しい、これまた2浪の4年生ふたりと3年生ひとりが加わって座は盛り上がった。一升ビンから直に湯呑み茶碗に酒を注ぎ、飲み交わすのである。おかずは電気コンロであぶったスルメである。

先輩たちは私に酒をすすめた。

「入学おめでとう、まあ飲めや。」

それまでにほとんど飲酒の経験のない私は断ろうとした。

「明日入学式です。朝早いで酒は駄目なんです。」

「あがーなもん出んでえんで。まあ飲め。」

先輩らは口を揃えて、入学式の欠席をすすめるのである。

私もすっかりその気になり、

「そうか、さすが大学は違うな。入学式に出席しなくてよいのか。」

と妙に納得してしまい、次々注がれる酒を飲み干してしまう。

「青木君、なかなか酒が強いじゃないか。」

「そうですか。」

そんな生まれて初めての褒め言葉を浴びせかけられて、もう止まらない。益々盛り上がり、夜は更けていった。

入学式の朝は最悪であった。初の二日酔いである。入学式どころではなく、布団のなかで唸っているしかない。同室の先輩は平然としたもので、「二日酔いには味噌汁がよう効くで」と声をかけてくれた。

よりによって入学式という日に、大学行事をさぼる快感を知った。これは非常にまずかった。歯止めがきかなくなったのである。大学の講義に出席するかどうか、自分の意思で決めればよいのだと考えるようになった。

入学して一週間は、選択した講義全てに出席した。ところが、高校の授業とあまり変わらない講義内容に失望し、出欠をとられる外国語の講義以外は出席しないことにした。テストの際にうまくやればどうにかなると思った。その結果、ほとんどの時間を寮の自室でごろごろと過ごすようになった。同室の先輩は教職への就職活動に忙しく、私のことに構っておれない。誰にも注意されることなく自堕落な生活をつづけることになる。

ほとんど大学キャンパスに姿を見せることなく寮の部屋に閉じこもるようになった。これは、私の大学への過度な期待がもたらした結果なのである。そもそも大学の講義が最初から面白いはずがない。辛抱すれば新しい何かを発見したに違いないのである。

(青木忠)

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