ふたりの時代【64】青木昌彦名誉教授への返信

忘れえぬ人たち(6)
 映画評論家・白井佳夫さんとの出会いは衝撃的であった。初対面であるにもかかわらず痛烈に批判されて、「映画=文化」に目覚めることになった。そしてその出会いが、政治運動のあり方の変革を模索していた当時の私に、脱皮の契機を与えることになった。それ以降、白井さんを映画の師匠として慕うことになった。


 すでに述べた飛鳥田一雄さんの指示で白井佳夫さんに会うことになった。面識はなかったが、映画が大好きな私にとって白井さんは憧れの人であった。そのころ毎週土曜日に東京12チャンネル(テレビ東京)で放映されていた、彼が進行役をつとめる「日本映画名作劇場」を楽しみにしていた。そうした想いもあって、うきうきした気分で約束の場所に向かった。
 しかし、そうした甘い気分はたちどころに吹き飛ばされてしまった。その原因は私にあった。「私は映画が大好きで、特に『男はつらいよ』は、盆と正月は家族で欠かさず観ています」と挨拶したところ、痛烈な批判がもどってきた。白井さんは、「だから政治運動がダメになるんだ。政治家にどんな映画を好きかと聞くと決まって『男はつらいよ』と『水戸黄門』という答えが返ってくる。失恋し辛くなったらプイと旅に出る寅さんのような男を賛美する風潮だから、日本の政治運動はうまくいかなくなる」と、迫ってきた。私はただ絶句するしかなかった。
 この醜態は、「飛んで火に入る夏の虫」を絵に描いたようなものであった。そのころ白井さんは、山田洋次監督の「男はつらいよ」の批判的評論の最中であったのだ。
「日本映画のほんとうの面白さをご存知ですか?」(1981年、講談社)で、映画に描かれている「寅さん」像について次のように語っている。
 ―(前略)車寅次郎こと寅さんという人間は、「建て前」と「本音」を交互に巧く使いわけることによってバランスをとり、笑いと涙でカモフラージュしながら、実はいつも、責任がなくて、いちばん楽で居心地のいいことしかやっていない、甘えん坊の適保護児童的中年男(?)なのではないだろうか。
 さらに私は、白井佳夫さんがありきたりの映画評論家でないことを思い知らされた。同著の「プロローグ」で次のように述べている。
 ―(前略)「面白くって、面白くって、しかたがないこと」のみが「本当の面白さ」というものでは、ないのである。多々ある「至らなさ」や「つまらなさ」をも総て包含した、その「矛盾に満ちた波乱万丈の面白さ」そのものこそが、日本映画の本当の面白さ、というものだと思うのである。
 なぜなら、日本映画とは、現実の日本の政治や経済や社会状況、そして人間生活や世態風俗そのものを、フィルムにそっくりそのまま反映した、鋭敏の鏡なのだから、である。だから日本映画を論じることは、恐らく現在の日本そのものを論じ、日本人そのものを論じることに、波乱万丈にどこかでつながってくるに違いない、と私は思っているのである。ならば、こんな「面白いこと」も、ないではありませんか?
 私は痛烈に批判されたにもかかわらず、いやそうだからこそ白井佳夫さんのことが好きになった。彼から譲り受けた著作を貪り読んだ。試写会や映画会に随行し、同じ映画をともに観て、食事をご馳走になりながら、映画について語り合った。こうして私は、映画=文化というものに目覚めていった。
 個人的にもお世話になった。長女の誕生のときには、オルゴールのプレゼントをいただいた。娘も息子もそのオルゴールがお気に入りで、その音色とともに育った。

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