重松清作品に見る“家族”のあり方【3】

Ⅳ 親子関係の変容

家庭の中で最も重要な役割を持つものは、親と子の関係である。現代の子どもはいわゆる”さとり世代”であり、現実への知識が豊富で、無駄な努力や衝突は避け、大きな夢や高望みが無く、合理性を重視するという特徴がある。そのような子どもたちに対し、父母はどう接しているのだろうか。


湯沢雍彦『データで読む家族問題』(日本放送出版協会・2003年)参照

子どもについて親が知っている割合は、どの項目においても父親より母親の方が高い。特に、子どもの悩みの相談相手は、母親の数値が父親の2倍近くを占めている。このことから、母親とは比較的親密であることが分かる。湯沢氏の調査によると、父親と子どもの会話は、1970年と2000年を比較すると1・4倍に増えているというが、内面的にはまだ父親の不在度が高いということが窺える。

これについて、重松氏は鶴見俊輔氏との対談で、「父親の権威が失墜したから家庭がだめになった」と語っている。ここでいう父親の権威とは、「妻より年齢が上、学歴が上」という”偉いお父さん”像のことであり、それがなくなってきたことによって、無条件にお父さんの居場所というのが与えられるものではなくなったという。(重松清・鶴見俊輔『ぼくはこう生きている君はどうか』潮出版社・2010年)

しかし、厳格な父親像が失われつつあることによって、先述の通り父と子の会話が増えるといったようなメリットもある。重松氏の作品に描かれる父親は、子どもと仲は良いがコミュニケーション不足であり、肝心なことを理解しきれていないという人物が多く、物語の中で父として成長していく。それはより現代の父親に近い姿であり、そこに家族間の関係の変化が顕著に現れている。

重松氏は多様で複雑な変化を遂げた現代の親子関係とその問題を、従来の視点に囚われることなく写実的に描写した。佐々木淳志氏の言葉を借りるなら、「関係性の変化から来る過去の家族の崩壊をリアルに浮き彫りにした」のである。(佐々木淳志『「カレーライス」の教材としての価値―人物像の分析を通して―』愛知教育大学大学院国語研究17・2009年)

(つづく)

平成27年度広島県ことばの輝きコンクール優秀賞作品
「重松清作品に見る“家族”のあり方」
因島高校3年 林真央

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