謎その34 村上義弘は信濃村上の系統を引くのか?

能島・因島の村上氏の主家筋にあたる毛利氏が関ヶ原の合戦で西軍について敗れたために、能島・因島村上氏は本拠地である芸予諸島を追われ、定住するようになった周防大島(屋代島)の東端に伊保田という所がある。
そこに「島越前守吉利」の顕彰碑があり、その銘文の冒頭部分に村上義弘の素性について記されてある。


書かれていることを要約すると、村上義弘は清和源氏の出自で、元弘2年(1332)に護良親王が吉野で挙兵したとき、その下で鎌倉の幕府方の軍と戦い、翌元弘3年2月の吉野落城の際、護良親王の身代わりになって蔵王堂で壮絶な最後を遂げた村上彦四郎義光の曾孫だというのである。
この時、義光の子兵衛蔵人義隆は、父の自刃後、護良親王を奉じて吉野から逃れる途中、親王を助けるために一人留まって追撃してくる幕府軍と戦って身に10余箇所の矢傷を受けて討ち死にした。この義隆の妻が義武を産み、その義武の子が義弘だったというのである。
顕彰碑の主、島越前守吉利は、村上義弘の遺児信清の末裔で能島村上氏の頭領村上武吉の下、多くの合戦で水軍の武将として武勲を上げた。関ヶ原の合戦の後、周防大島に移り、慶長7年(1602)7月8日にこの島の森邑で亡くなった。
問題は、ここに記された島家の来歴が事実であるかどうかということである。村上義隆が吉野で自刃したのは元弘3年で、その時彼の妻は義武を身籠もっていたと書かれている。「太平記」によると、当時、義隆の年齢は18才である。義武が元弘3年に仮に生まれたとして、その子義弘が活躍する正平19年(1364)まで31年間しかない。31才の義武の子どある義弘が海賊将軍として兵を率いることは考えられない。

筆者紹介

今井豊
今井豊歯科医師、尾道市文化財保護委員
因島外浦町在住で、職業は歯科医師です。1997年ごろから趣味で、村上水軍の歴史を中心に、文化財・郷土史などの研究を重ね、現在は尾道市文化財保護委員をしています。

このコーナーでは、瀬戸内海のこの地域で約400年前に活躍した「村上水軍」の歴史について、身近な疑問に沿ってやさしく解説していきたいと思っています。

私はいつも「歴史を学ぶということは、ただ歴史を知るだけではなく、歴史を現代にいかに活かすかを考えることがとても大切なことであり、歴史はつくろうと思ってつくられるものではなく、今一生懸命やっていることが時を経て歴史となる」と考えています。これからも、常に研究をつづけていきたいと思います。

謎その34 村上義弘は信濃村上の系統を引くのか?”へ1件のコメント

  1. 村上羅漢 より:

    今井様、
    先日、極めて興味あるご労作に出会いました。
    小生も『村上水軍を巡る随想』を書きためております。
    出身は重井(中学卒業まで)、関東の住です。おそらく今井様と同年代かな、と想像しております。
    村上三郎左衛門尉義弘は、村上水軍史のなかでも最もロマンに満ちた生き様をした好漢のようで一番、探索のし甲斐を感じております。
    若くして新居大島に幼い懐良親王を迎え、一生を西征府の樹立に捧げた人生。 
    先日、義弘に率いられて肥後に進出し、南北朝期を生きぬいて今日にその痕跡を残す、瀬戸内の水軍将士を探索して参りました。
    瀬戸内の郷土ではほとんど記憶にも残っていないこれらの人々の活躍は、肥後においてはまるでつい最近の出来事の如く後裔に語り伝えられ、“この家は懐良親王と共にやってきた家なのですよ”とか“先祖は懐良親王についてやって来た、と父が話していました”と80歳の女性がお話してくれたりと、大変に感動いたしました。
    ある事実から直感でこの展開を発見した(と自分では興奮しましたが)、肥後のこの地区ではごく当たり前の歴史事実なのだと思い知らされ、歴史探索の醍醐味を満喫しているこの頃です。
    義弘の系譜は、島君碑の記述、太平記、尊卑分脈、予章記などを基に事歴と年齢の考察などなどを分析すると、少し実態に近づけるかな、と感じています。
    北条時直の兵船を鞆沖で撃退した、というのは土居・得能の働きとの混同。
    河野通直を擁しての伊予奪還戦は事実。  など、残念ながら左衛門尉くらいの身分では当時の正史には記録されず、後世の伝承で肥大化、ロマン化された話があたかも史実のように伝わってゆくものだな、と認識しております。
    同時に、ひと昔前と比べれば入手できる情報量は格段に多い訳だし、分析と整理は自分の、あるいは郷土史に関心のある者達の使命だと思っております。
    今後、情報交換を含めましてご一緒に歴史の探索など出来ましたら幸甚に思います。
    よろしくお願いいたします。

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