いそおんながでる海

夏から 「二人劇場」とでも呼ぼうか、音楽付きの紙芝居をポレポレ仲間の原田恵子さんと一緒に何ヵ所かで上演してきた。皮切りは 因島の某放課後児童クラブ。いつもの絵本の読み聞かせとは違った何か歌や音楽を入れたものがあれば…という依頼に応えてのこと。
子ども達って お化けや恐い話が大好き!? 前々からやってみたかった 「こわ~い話特集」 にしようと思いたった私は、図書館の紙芝居コーナーで物色。「日本民話かみしばい選おばけがいっぱい」(松谷みよこ監修童心社)の中から「のっぺらぼう」、「ゆきおんな」など、「こわいぞ!世界のモンスター」シリーズ(童心社)の中から「ミイラ男」などを選び出し、音楽担当の原田恵子さんに話をもちかけ進めていった。
私の読み語りを盛り上げ 不思議な世界に引っ張り込んでくれる、音と音楽。キーボードで巧みに表現してくれる彼女は、元保育士さんで、子供・物語・音楽の大好きな、 私にとって 大切な大切な仲間である。「ミイラ男」がしのび寄って来る足音や、エジプトの砂漠をイメージして弾く曲、「のっぺらぼう」の顔をなでるシャラ~ン♪という音等、なかなかすごいもんですよ!! 持ち運びキーボードと紙芝居を抱えて、私たちは因島や瀬戸田の放課後児童クラブ、幼稚園、放課後子ども教室等を巡回し、楽しい時間を過ごしている。「おばけなんてないさ」や「ゲゲゲの鬼太郎」の歌をみんなで歌ったりもしながら。
で、ここで特記したい紙芝居が一つ。
「日本の妖怪ぞろーり」という紙芝居のシリーズで 「いそおんながでる海」 が、それ。「へびおんな」とか「ゆきおんな」とか「ナントカおんな」って、よく妖怪に名付けられているけれど、「いそおんな」って、どんな妖怪?知らないな、こわそうかな? と思って、他の作品といっしょに借りて帰って読んでみて、私は恐いというより とても感動してしまった!! あぁ、これイイーと。「人の命より大事な事はありません。」という台詞が美しく響く…。これも伝えたいと思った。子ども達が興味津々なこわい話の中で、ちょっとホロリ、心に残るメッセージ。
物語のあらすじを書いてみよう。

いそおんながでる海(紙芝居「日本の妖怪ぞろ~り」全7巻より)
脚本・北川幸比 / 古画・宮本順子(童心社)
いそおんながでる海
きれいな夕焼けの空の下、浜に若い侍が来て漁師に舟を出してくれと頼みました。お殿様の急ぎの使いで、入江の向こうの岬の村まで行きたかったのです。ところが、漁師は、陽が沈むと恐ろしい「いそおんな」が現れうっとりする声でたぶらかし血を吸ったり海の中に引込んだりするから駄目だというのです。そこで、若い侍は舟を借りて一人で海にこぎ出しました。
陽が沈み月がのぼる頃、
「もうし、お侍さま」
出ました!! 美しい声の女が岬の崖に―
「お頼みしたいことがあります。」
そのあまりの美しさに若い侍は、お殿様の使いのことも恐ろしい噂のことも忘れ、
「はい、私にできることなら何でも!」と答えます。
「少しの間、この子を抱いていてはいただけないでしょうか。」
女は着物にくるまっている小さな赤ちゃんを抱いていました。
「お侍さま、どんなことがあっても、この子を抱いていて下さい。決しておろしたり、この場所から動かないと約束して下さい。」
侍に赤ちゃんを渡すと、女はおじぎをして後ずさりに姿を消しました。 赤ちゃんを受け取った侍は、じっと抱き続けました。
ヒタヒタヒタ… 潮が満ちてきて足をぬらしても―
ザブーン!ザザザザザブーン…
波音が高くなっても、足を踏んばって動きません。不思議なことに、赤ちゃんがズシッズシッと重くなってきたように感じられます。月が雲に隠れ雨がバラバラと降ってきました。風がヒューッと吹きました。侍は、赤ちゃんに雨や風があたらないように、覆いかぶさるように抱き続けました。
それにしても、重い、重い…。 腕もしびれてきました。
「しかし、下におろさないと約束したのだから。うーん……」と 耐えました。
目を閉じると、家で帰りを待つお母さんが見えました。
「母上!」
お母さんの声が聞こえてきます。
「くじけないで!約束を守って!」
「はい、母上。 しかし、お殿様の使いの途中なのです。」
「赤ちゃんを預かって守るのは、何より尊い仕事です。 人の命より大切なことはありません。」
侍は、もう気が遠くなりそうでしたが、母の声に
「はい、わかっています。」と答え、赤ちゃんを抱き続けました。
その時、突然、ドーン、バリバリバリ…と大きな音が響き、あたりが一瞬明るくなり、空には白い鳥、海にはイルカが舞い、よい香りが漂い、まるで海が何かお祝いをしているようにみえました。
「ようし、がんばるぞ。約束は守るんだ。」
若い侍が息を大きく吸い込むと、また空が暗くなりました。ふと気がつくと、さっきの女の人が、力を使い果たした様子で立っていました。
「ありがとうございました。あなたさまのおかげで、今この先の村で赤子が一人無事に生まれました。」
「えっ?」
「もう重くはないでしょう。」
「あっ、これは…。」
若い侍が抱いていた赤ちゃんは消えていました。
「もしかして、あなたは、いそおんなでは…?」
「そうです。いそおんなです。」
漁師たちの言う いそおんなの噂は間違っていたのです。
「私の役目は、赤子が生まれる時お助けすることです。 特に力がいる時は、誰かに助けていただくのです。」
若い侍は、いそおんなの声がお母さんに似ていると思いました。いそおんなとは海の母上のようなものだろうかと心の中で思いました。
「私は役に立ったのですね?」
「ええ、ええ。あなたさまがくじけず、約束を守ってくださったので、難産の子が無事に生まれたのです。ありがとうございました。」
そして 朝陽に向かって再び歩き出した若い侍の後ろから、いそおんなの優しい声が聞こえてきます。
「あなたは、この後、人の何倍も世の中の役に立つ人になるでしょう。」

紙芝居が始まる前はがやがやしていた子ども達も、物語が流れ出すと、シーンとして聞き入っている。学校の授業以外の場所で、 元気あまる子ども達に じっとしていろというのは、せいぜい15分から20分が限界だろうか。でも、物語の世界に入り込めたら、30分でも40分でも平気なんだ。喋っても聞かない子ども達も、語れば聞くのだ。

筆者紹介

橋本和子
橋本和子
こんにちは。はじめまして。橋本和子です。実にどこにでもある名前ですよね!? でも、いまの私には、とっておきの大切な名前。だって、『子』どもたちに『本』を渡す『橋』のような役割、その中には『和』がある-なんてすてきな語呂あわせでしょ!?

橋本和子さん似顔絵 私はしなまみ海道の生口島で『おはなしひろばポレポレ』というグループで読み聞かせをしています。毎月、保育園、幼稚園、図書館などで「おはなし会」をもち、絵本の読み聞かせ、紙芝居、手あそび、歌、おりがみなど、いろいろ取り入れて楽しくやっています。

小学校では“ゲストティーチャー”として、読み聞かせ&ブックトーク(本の紹介)の授業も行っています。中学生のためのグループ「読書ボランティア・スピカ」にも所属し、中学校の朝読やブックトーク授業にも関わっています。

日ごろ、島の子どもたちにいろいろな絵本や読みものを渡している私ですが、今回からこういう場を得て、大人のみなさんにも本を紹介させていただけることになり、嬉しくてドキドキしております。子どもから大人までみんなで楽しめる絵本や、大人が読んでも感動しちゃう児童文学、親子で語り合える本をたくさん取り上げていきます。

稚拙な文章ではありますが、読み聞かせのエピソードも交え、少しずつ書いていこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

いそおんながでる海”へ1件のコメント

  1. やっちー より:

    またまた涙がでてしまいました。
    海(潮の満ち干)と出産の不思議な関係。
    因果関係は直接は解明されていないらしいのだけど、新月の大潮の日で海が満ちる時、本当に出産が多いのは、もしかして「いそおんな」のお陰?!
    そう思えるってステキですね!

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